モンゴルと中国は仲が悪いって本当?両国の歴史・関係を紹介!

モンゴルは南の国境を中国と接しており、内モンゴル自治区には同じモンゴル民族が数多く暮らしています。両国は一見円満な関係を築いているように見えますが、モンゴルにおける中国人のイメージは必ずしもよいとはいえません。

モンゴル観光では「中国人に間違われないように注意して」などと言われることもありますが、その理由は何なのでしょうか?ここからは、モンゴルの人々が抱く中国への複雑な感情や、反中に偏ってしまう歴史的な理由、さらには現在の両国の関係について詳しく紹介します。

モンゴル人は中国人をよく思っていない?

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モンゴルの首都・ウランバートルを歩いていると、反中国を訴える落書きなどを頻繁に目にします。モンゴルの人々は、中国に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか?

中国人に対してネガティブなイメージを持つ人が多い

現在、モンゴルの輸出の約90%は対中国です。モンゴル経済は中国なしには成り立たない状態ですが、両国の関係は必ずしも対等とはいえません。これがモンゴル人の不満を招く要因の一つとなっています。

例えば、モンゴルの主要輸出品のトップである石炭を見てみましょう。モンゴルの石炭の99%は、中国に輸出されます。しかし、その価格は世界平均のわずか1/3ほどにしかなりません。これはまさに「買いたたかれている」状態で、モンゴルの人々は大きな不満を持っています。

加えてモンゴルには中国から多数の資本が流入しており、売上の多くは彼らの懐に入ります。モンゴルの資源を売っても地元に還元されない現状に、「納得できない」と感じるモンゴル人も少なくありません。

また、総人口約350万人程度のモンゴルには、中国から多数の労働者が押し寄せています。モンゴル人の中には、「中国人に仕事を奪われる」と警戒する人が多いとか。これも、対中感情が悪化している要因の一つです。

中国人と間違われてトラブルになることもある

モンゴルの人気観光地・テレルジでは、中国人に間違われた韓国人がモンゴル人から暴行を受けるという事件が発生しました。これを受け、在モンゴル日本国大使館のHPでは、モンゴルを訪れる邦人に対し、以下のように注意喚起しています。

日本人の皆様がテレルジに行く際にも同種の事件(中国人に間違われて暴行を加えられる)が起きることも考えられることから、必ず日本人であることを証明できる身分証(パスポート等)を携行し、同種のトラブルに巻き込まれかけた場合は、身分証により日本人であることを証明して下さい。

同様の記述は、米国務省のモンゴル渡航情報にも見られます。モンゴルでは中国人に間違われることがトラブルにつながりやすく、観光客でも油断はできない状態です。

モンゴル国内にも民族主義グループがある

2000年くらいまで、モンゴルでは外国人排斥の運動や団体はほとんど存在しませんでした。しかし、2005年、「ダヤル・モンゴル」という民族主義グループが中国系のホテルや商店を襲撃するという事件が勃発。モンゴル国内で起った外国人排斥の動きは、国内外に大きな衝撃を与えました。

また同グループは、2007年に「ハングル語や漢字を使った店舗や施設を襲撃の対象とすること」「中国人男性と行動を共にするモンゴル人女性も襲撃すること」を宣言。実際にモンゴル人女性を丸刈りにする映像を動画サイトに投稿しています。

ポップカルチャーでも反中が進む

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出典:OZY

民主化以降、モンゴルにもさまざまなポップカルチャーが流れ込んできました。中でも若者からの支持があついのがラップです。

人気ラッパーの中には低所得層出身の人も多く、モンゴル人の日々の暮らしの困難や社会問題をリリックに乗せたものが珍しくありません。そしてこれが、若者の間に民族主義的思想を呼び起こすきっかけとなっているのです。

モンゴルで人気を博すラップの中には、中国を警戒するもの、批判するものも数多く見られます。例えば人気グループ「ドゥルブンズグ」は「中国人よ、度を超すな」という楽曲をリリースしています。また、スラム街出身の人気ラッパー「ジー」は、「中国に影響されるな、モンゴル人のアイデンティティを保て」という内容の楽曲を発表しています。

こうしたラッパーたちの影響力は無視できないほど大きく、政治的に利用されることもしばしばです。

選挙では「家系図」の公開も行われた

2017年の大統領選では、与党・モンゴル人民党(MPP)の候補者だったエンフボルト氏について「祖先が中国人である」という噂が流れました。これを受け、彼は即座に家系図を公開。生粋のモンゴル系であることを証明しています。

また、モンゴル人民革命党のガンバタール氏も同様に家系図を公開し、選挙戦では「モンゴル第一」「中国系ではない」ことを強く強調する候補が見られました。

家系図を公開してまで「中国と無関係である」ことを訴えるのは、モンゴルの人々の間に強い反中感情があるためです。モンゴルの有権者の中には「中国の経歴を持つ人には、大統領府でモンゴルを代表する権利がない」と考える人が少なくありません。

中国とつながっていると見られることは、政治家にとっても大きなマイナスポイントとなるのです。

モンゴル人が中国を嫌がる理由

モンゴルの人々が中国を敬遠するのは、歴史的な問題や中国の国策に不安があることなどが原因と見られます。「モンゴル人は中国嫌い」と言われる理由について見ていきましょう。

歴史的な関係から

歴史的に、遊牧民族であるモンゴル人と農耕民族である漢民族は敵対を続けてきました。遊牧民族が従属させられた時代もあれば、遊牧民族が漢民族を支配した時代もあります。両国の関係は良好とはいえない時代が多く、根本的に「農耕民族である漢民族とは相容れない」と感じるモンゴル人は多いようです。

近いところでは、中国最後の王朝・清の時代、モンゴルの遊牧民は約200年も従属を強いられました。そして王朝が崩壊した後も全ての土地がモンゴルに還されたわけではなく、一部はいまだ中国の領土のままです。

同じ民族が国の都合で分断されているという意識は、中国という国への不信感を生み出すのには十分な理由といえるでしょう。

また、世界で2番目の社会主義国となったモンゴルは、ロシアの衛星国家として長く中国と敵対していました。モンゴルが民主化するまで両国のやりとりはほぼなく、1960年代から80年代までの間に、両国間の文化的な溝がより一層深まったと言われています。

モンゴルの独立に対する認識の違い

内モンゴル自治区は中国の一部で、領土は日本のおよそ3倍です。総人口約2,500万人のうちモンゴル族は約450万人を占め、その数はモンゴル国に暮らすモンゴル民族よりも多いといわれます。

この土地に対し、モンゴル人は「内モンゴル自治区はもともとモンゴルの土地である。歴史的な経緯から手放すことになってしまった」と考えます。一方、中国人は「モンゴルはもともと中国に属していた。歴史の流れで、外モンゴルだけが中国から離れてしまった」という考えです。

モンゴルでは「モンゴルと中国は別物」という意識が一般的ですが、中国では「モンゴルは中国にいる少数民族の一つ」と考える人が少なくありません。モンゴルの人々の多くは、中国のこの考え方に疑問と反感を抱いています。

今のところ「中国はモンゴルに対し領有権を主張することはない」という姿勢を強調していますが、将来のことは分かりません。チベットやウイグルの例を見て、不安を抱えるモンゴル人は多いようです。

人口圧力による恐怖

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モンゴルは国土こそ日本の約4倍と広いものの、人口は約320万人とわずかです。これに対し、中国の人口はおよそ13億人。両国の差は圧倒的な上、内陸国家であるモンゴルには逃げ道がありません。中国人が大挙して押し寄せれば、国土はあっという間に中国人で埋まるでしょう。

実際のところ、モンゴルの民主化以降、中国人の経済・人的往来は増加の一途をたどっています。

例えば、2000年にはモンゴルを訪れる外国人のうち、中国人の割合は約36.4%でした。これが2013年には50.8%に。モンゴルを訪れる中国人の割合は、年々増加しています。

経済や人との結びつきが深くなるにつれ、モンゴルの人々は「中国人に国を奪われるのでは」「モンゴルが中国と同化して、アイデンティティを失ってしまうのでは」と懸念を強めているのです。

宗教問題

モンゴルでは、ダライ・ラマを宗主とするチベット仏教が広く信仰されています。ウランバートルにはダライ・ラマゆかりのお寺もあり、過去にはダライ・ラマが足を運んで説法を行ったこともありました。

しかし、チベットを自国の領土と主張する中国政府は、ダライ・ラマを認めていません。モンゴルにもダライ・ラマの入国を認めないよう圧力を掛け、これが人々の反感を呼んでいます。

特に反感を買ったのが、2016年11月のダライ・ラマ訪問です。中国政府はモンゴル政府がダライ・ラマを入国させたことに敏感に反応し、モンゴルに対して厳しい制裁を行いました。モンゴルから輸入する鉱物に高関税を課したり、決まっていた元借款を凍結したりなどしたのです。

この時期、資源価格暴落により、モンゴルの経済は低迷していました。そこに中国からの制裁が加わり、モンゴルはさらに大きなダメージを被ることとなったのです。

結果、2017年1月には政府が「現政権ではダライ・ラマの入国は認めない」と宣言。中国の要求を受け入れるかたちとなりました。

民族問題

中国は2020年より少数民族言語を使う授業を大幅に減らし、標準語(漢語)教育を始めました。これにより内モンゴル自治区でもモンゴル語の授業が大幅に減らされ、内モンゴル自治区からモンゴル語が消えていくのではと危惧されています。

「内モンゴル自治区もチベットやウイグルのようになるのでは」と懸念する人も多く、中国政府のやり方に反感を持つモンゴル人は少なくありません。

加えて内モンゴル自治区のモンゴル民族は、文化大革命(1966~76年)で激しい弾圧にあったという歴史があります。モンゴルには、そのときの記憶を忘れていない人も多いのです。

「民族回帰」の流れが強いモンゴルでは、2025年より、モンゴル語を母国語表記に採用することが決まっています。中国政府のこうした強攻策は、「モンゴルと内モンゴル自治区の結びつきが強まるのを警戒しているためではないか」と言われています。

モンゴルと中国の現在の関係

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反中感情が根強く残っているモンゴルですが、大規模な反中運動がそこかしこで起こっているわけではありません。現在のところ政治的なトラブルは見られませんし、中国との関係を合理的に考えているモンゴル人もたくさんいます。

モンゴル人の中国との係わり方を見ていきましょう。

政治関係は比較的安定している

一般的な人々の対中感情は決してよくないものの、政治的な緊張関係はほぼ見られません。内モンゴル自治区の漢語強化政策についても、モンゴル政府は「他国の内政には干渉しない」ということを明言しています。これに対し中国政府も同様の見解を表明しており、2国間の円満な関係が強調されました。

また近年は中国とロシアが急接近しているといわれ、これにモンゴルが加わることも珍しくありません。2018年には「ロシア史上最大」といわれた軍事演習に、モンゴルは中国とともに参加しました。

ロシア・中国という大国に挟まれたモンゴルにとって、両国の機嫌を損ねるのは避けるべき事態です。モンゴル政府は常に中国そしてロシアの動向に細心の注意を払い、衝突を避けながら対応しています。

中国は嫌いだけど「パートナー」

モンゴルに本拠地を置く「サントマラル財団(Sant MaralFoundation)」は、2008年よりモンゴル人を対象にした意識調査を行っています。

この中で「モンゴルのベストパートナーはどこか」という質問に対し、多くのモンゴル人が中国を挙げています。また「協力しやすい国」としても中国を挙げる人が多く、モンゴル人の持つ反中感情が必ずしも両国関係の全てではないことを物語っています。

この結果は、モンゴルの人々が非常に合理主義的な考えを持っていることと無関係ではないでしょう。反中感情を持ちつつも、モンゴルの人々にとって中国は「協力していかなければならない相手」です。現実的に見て中国に変わる国はなく、多くの人は「上手くつきあっていくしかない」と考えているのかもしれません。

複雑な感情がありつつ、モンゴルにとって中国は無視できない存在

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歴史的・宗教的・民族的問題から、モンゴルでは反中感情が高まっているといわれます。とはいえ輸出のほとんどを中国に依存しているモンゴルにとって、中国は無視できる存在ではありません。表向きは冷静に対応していく必要があり、両者の関係は、表面上は良好です。

ただし、モンゴル人の中には中国人をあからさまに嫌う人もいます。モンゴルを訪れる場合は、常に日本人であることを証明できるようにしておくのがベターです。