モンゴルのあらゆる機能が集結するウランバートルは、モンゴルののどかなイメージを裏切る都会的な雰囲気をまとっています。これからウランバートルを訪れる予定がある人は、都市の歴史や気候・環境などを知っておくとより深く旅を楽しめるでしょう。ここからは、ウランバートルの概要や気候・治安・生活、さらには都市が直面する社会問題について紹介します。
ウランバートルの概要
ウランバートル(Ulaanbaatar:Улаанбаатар)は、モンゴル国の首都です。モンゴル国の民主化以降は特に目覚ましい発展を遂げ、現在ではモンゴル国の文化・政治・経済の中心として機能しています。ウランバートルとはどのような街なのか、まずは概要を見ていきましょう。
ウランバートルの歴史
17世紀頃、ウランバートルがあるトゥール川流域は、チベット仏教の高僧・ジェブツンダンパ・ホトクトが統治していました。
彼の寺院は遊牧により定置を定めない「移動寺院(フレー)」でしたが、後に現在のウランバートルがあるエリアに定住するようになります。これにより寺院の周辺には領民・僧侶が集まるようになり、大きな街が形成されました。
ウランバートルの原型ともいえるこの街は、後に「Ikh Khuree(イフ・フレー)」とよばれます。清朝統治時代には「ハルハ族」を統治する出先機関の一つとして、非常に重視されました。
1911年の辛亥革命で清王朝が滅びるとハルハ族が決起し、このエリアの自治を宣言します。このとき、ウランバートルは「Niislel Khuree(ニースレル・フレー)」と名を改められました。
ウランバートルが現在の名前になったのは、1924年の「モンゴル人民共和国」誕生のときです。その意味は「ウラン(赤い)」「バートル(英雄)」ですから、革命にふさわしい名前といえるでしょう。
モンゴル国の民主化以降もウランバートルは首都として定められており、現在のモンゴル国憲法にも「モンゴル国の首都はウランバートルである」と明記されています。
ウランバートルの行政区は9つ
首都として重要な機能を持つウランバートルは、モンゴル国「首都特別区」に指定されており、「県」とほぼ同等の主権機能を持ちます。行政区は9つあり、さらに173の小区に分類されているのが特徴です。行政区の名称は以下を確認してください。
- バガヌール区
- バガハンガイ区
- バヤンゴル区
- バヤンズルフ区
- ナライフ区
- ソンギノハイルハン区
- スフバートル区
- ハンオール区
- チンゲルテイ区
このうち、市役所などがあって都市機能が集中しているのが「スフバートル区」。スフバートル広場やホグドハーン宮殿博物館などがある、ウランバートルの中心です。
また、観光名所として人気の「テレルジ国立公園」はバガヌール区、ウランバートルを一望できる人気スポット「ザイサン・トルゴイ」はハンオール区にあります。
ウランバートルの人口・世帯数
ウランバートルの人口は153万9,810人に上り、世帯数は41万1,420世帯です。(2020年時点)同年のモンゴル国の総人口が336万4,622人ですから、人口のおよそ半分がウランバートルに集中していることになります。
社会主義時代のモンゴルでは居住地の移動が制限されており、住まいを変えることは容易ではありませんでした。しかし、民主化以降居住地の自由が認められ、移動の際の税金も撤廃されています。
人々は仕事が多い首都に移動するようになり、ウランバートルの人口は増え続けました。現在のウランバートルは、世界でも類を見ないほどの一極集中都市です。
ウランバートルの気候
湿度が高く四季がはっきりしている日本の都市と比較すると、ウランバートルは乾燥がちでかなりの低気温。季節ごとの趣は全く異なります。ウランバートルに行くのは、どの季節がよいのでしょうか?ウランバートルの気候の概要や各月の平均気温を見ていきましょう。
ウランバートルの気候の概要
海抜約1,350mの高所にあるウランバートルは、「ボグドカーン」「バヤンズルク」「ソンギノカーカーン」「チンゲルテイカーカーン」の4つの山々に囲まれています。
気候は大陸性ステップ気候に属し、湿度は高くありません。降水量は少なく、1カ月の総雨量が日本の1日の総雨量と同程度であることもしばしばです。
また、冬の寒さが厳しいことでも有名で、ウランバートルは世界で最も寒い首都の一つにも数えられています。
なお、ウランバートルの緯度はミュンヘンやオルレアンと、経度は重慶やジャカルタと同じくらいです。
ウランバートルの春・夏
春・夏は気候もよく、草原の緑が美しい時期です。日本と違って湿度が低いため、夏でも快適に過ごせるでしょう。ただし夜は冷え込むこともあり、長袖は必須です。
月 | 最大平均温度 | 最小平均温度 |
3月 | -2℃ | -15℃ |
4月 | +8℃ | -6℃ |
5月 | +17℃ | +3℃ |
6月 | +22℃ | +8℃ |
7月 | +23℃ | +11℃ |
8月 | +21.5℃ | +9℃ |
ウランバートルの秋・冬
夏の終わりから秋の初めは寒くもなく厚くもなく、非常に快適で過ごしやすくなります。
ただし秋が深まってくると気温も低くなり、雪もちらついてくるでしょう。冬は極寒で、特に1月は厳しい寒さに要注意です。都市部でも防寒対策をしっかりと行う必要があります。
月 | 最大平均温度 | 最小平均温度 |
9月 | +16℃ | +2℃ |
10月 | +7℃ | -6℃ |
11月 | -4℃ | -16℃ |
12月 | -14℃ | -24℃ |
1月 | -16℃ | -26.5℃ |
2月 | -11℃ | -24℃ |
ウランバートルの治安・交通
モンゴルは全体的に治安のよい国ですが、人口の多いウランバートルではある程度の注意が必要です。ウランバートルの治安や交通について見ていきましょう。
スリや置き引き、酔っ払いに注意
モンゴルの犯罪の約70%はウランバートルで発生しています。特に多いのは、スリや置き引きなど。観光地や市場・公共交通機関など、人が集まるところにはスリ集団が待機しているケースも少なくありません。
また、モンゴルの人はお酒が大好き。酔っ払って他人に絡む人も散見されます。気候のよい季節などは、昼夜問わずあちこちに酔っ払いが出没することも珍しくありません。お酒を提供する店に行く際は、絡まれないよう気を付けましょう。
このほかのトラブルとしては、タクシーによるぼったくりや両替詐欺なども多数報告されているようです。日本人は「お金を持っている」と見なされやすいため、常に気を抜かないようにしなければなりません。
なお、治安についてはこちらでも詳しく紹介しています。詳細を知りたい人は、チェックしてみてください。
モンゴルの治安は良い?悪い?現地の最新情報を紹介! | モンマグ
交通マナーは日本と同じと考えないこと
ウランバートルでは車の所有率も高まって、道路はあちこち渋滞しています。日本車の人気が高いので、おなじみのレクサスやプリウスなどをたくさん目にすることとなるでしょう。
ただし、走っているのが日本車でも、交通マナーはかなり荒いのが現状です。街には絶えずクラクションが鳴り響き、「我先に」という人が目立ちます。「ウランバートルでレンタカーを借りる」という選択はあまりおすすめできません。
また、日本のように「歩行者優先」と考える人も少ない印象です。青信号で横断歩道を渡るときでも、左右をしっかりと確認して安全を確保しましょう。
交通手段
ウランバートルではバス路線が充実しており、市民の多くはバスを利用して移動を行っています。バスは通常の路線バスだけではなく、「架空電車線」をつかった「トロリーバス」やいわゆる乗り合いバスのような「ミクロ」もあります。市内のバス会社数は82社あり、そのうち国営は3社です。
とはいえ、ウランバートルをバスで移動するのは簡単ではありません。道路が整備されているのは市の中心部のみで、郊外は無舗装の道もあります。交通秩序の欠如や標示の不足・駐車場の不足などから交通がスムーズに流れないこともしばしばで、「歩いた方が早かった」というケースも少なくありません。
ウランバートル市内を移動するときは、徒歩・自転車が便利です。
ウランバートルの生活
西欧化が進むウランバートルでの生活は、民主国家のそれとさほど変わりません。近年はおしゃれなショッピングスポットやレストランも増え、活気に溢れています。ウランバートルでの生活の楽しみ方を紹介します。
活気があるのは第3区・4区
第3区・4区は、有名な観光スポット「ガンダン・テクチェンリン寺」の北西あたり。このエリアは、たくさんの商店街が並ぶ活気のあるエリアです。映画館、ショップ、カラオケ、レストラン、服飾店などのほか、サウナもアリ。1日過ごしても飽きません。
また、有名ショップなどが1号店を置くのも、このエリアからといわれます。ここで成功を確信したショップは、市内のほかのエリアにも拠点を増やしていくのが一般的です。
このエリアに行くときは、ガンダン・テクチェリン寺を目指しましょう。
- 名称:andan Tegchenling Monastery
- 住所:16 Khoroo, Bayangol District, Ulaanbaatar
ショッピングはおしゃれなショッピングモールへ
巨大資本の流入も目立つウランバートルでは、おしゃれなショッピングモールもさまざま登場しています。
例えば、「ザルサン・スクエア・ショッピングセンター」はラグジュアリーな衣類からアクセサリー、子ども服や家庭用品がそろうショッピングモール。フランスの衣類ブランド「プチバトー」、アメリカの食器メーカー「レノックス」などが入っています。
「ザルサン・トルゴイ」と途中までつながっているため、観光ついでに立ち寄るのもおすすめです。
- 名称:Zaisan Square Center
- 住所: Khan-Uul District, 11th khoroo, Dunjingarav 14 Ulaanbaatar
また、「シャングリラモール」は、スフバートル広場から徒歩約10分の場所にあるショッピングモール。映画館やショップが充実しており、ダイニングからショッピング、エンターテイメントまで楽しめます。
「グッチ」「バレンシアガ」などのハイブランドから「エーグル」「モンベル」などのアウトドアブランドまで、バリエーションは豊富です。
- 名称:Shangri-La Mall
- 住所:Shangri-La Centre, Ulaanbaatar
日用品が必要なら「ナラントゥール市場(Narantuul Market)」
市内中心部から東へ5kmほど行ったところには、ありとあらゆるものを販売している巨大バザールがあります。ここでは食品、家具、衣類、電子機器、カーペット、さらにはゲルの材料までそろっており、購入できないものはありません。
観光客向けの市場というよりはローカル御用達の雰囲気なので、「モンゴルの生の暮らしを見たい」という人にはぴったりでしょう。
ただし、市場はスリ集団が常駐していることでも知られます。足を運ぶときは、貴重品を持たないよう気を付けましょう。
- 名称:Narantuul Marke
- 住所:Ulaanbaatar, Mongolia
週末は遊園地で楽しい一時を
ランバートル南東の「バヤモンゴル住宅街」のすぐそばには、国立遊園地(National Amusement Park)があります。観覧車やジェットコースターなどがあって、小さな子どもがいるファミリーなら楽しめることうけあい。公園内を自転車で散策するのも楽しいですよ。
お土産物屋、レストラン、Free Wi-Fi完備で、1日いても飽きません。
天気のよい休日は、モンゴルの家族連れで賑わっています。
- 住所:Olympic Street, Ulaanbaatar
ウランバートルのおすすめ観光スポットは以下でも紹介しています。ツボを押さえた観光を楽しみたい人は、ぜひチェックしてみましょう。
現地を知る日本人がおすすめするモンゴル・ウランバートルの観光スポット7選!観光に役立つ交通機関や季節の情報も紹介 | モンマグ
ウランバートルの社会問題
民主化以降、急激な発展を遂げたウランバートル。高層ビルが立ち並ぶ中心部は華やかな雰囲気ですが、中心部を離れるとスラム街もあります。現在のウランバートルが直面する、社会問題について見ていきましょう。
ゲル地区
ウランバートルの郊外には、「ゲル地区」と呼ばれる低所得者層が住むエリアがあります。ここに住むのは、主に遊牧生活が立ち行かなくなった遊牧民です。
次のエリアが該当します。
- バヤンズルフ区
- ソンギノハイルハン区
- チンゲルテイ区
昨今、モンゴルでは草原の荒漠化や異常気象の続発により、遊牧生活をあきらめる遊牧民が後を絶ちません。アパートを借りたり家を購入したりできない彼らは、ウランバートル郊外にゲルを建てて暮らすようになりました。
ウランバートルに流入してくる遊牧民の数は増え続け、現在では市の人口の約5割以上がゲル地区に居住しているといわれます。
遊牧生活で暮らしていた遊牧民ができるような仕事は、都市部ではそう簡単に見つかりません。このエリアの失業率は高く、60%を越えると言われています。
大気汚染
ゲル地区への対応が急務と言われるのは、このエリアが深刻な大気汚染を引き起こしているためです。
ゲル地区には生活に必要なインフラがほぼなく、人々は電気・ガス・水道なしで暮らしています。極寒の冬には住民が一斉に木や石炭を燃やして暖を取るため、膨大な二酸化炭素が排出されるようになりました。
これにより空気は激しく汚染され、ウランバートルの冬の大気の汚染濃度は、安全レベルの100倍以上に上る日もあります。
大気汚染が子どもに与える影響
汚染された空気は特に子ども達に大きな悪影響を与えています。ウランバートルに住む子どもは、地方在住の子どもより肺機能が約40%劣るのだとか。また、肺を患っている子どもも多く、5歳以下の子どもの死因では「肺炎」が2位となっている状態です。
モンゴル国立公共保健センターとユニセフ(国連児童基金)は、2018年に発表した共同の報告書で「今後数年のうちに現状が改善されなければ、大気汚染によって病気を患った子どもたちを治療するための経費が、2025年には33%増加する」と警告しました。
モンゴル政府の対策
ゲル地区の増大を防ぐため、モンゴル政府は地方から首都への移動を禁止すると発表しました。
また、大気汚染については、国民に対し二酸化炭素を多く排出する「原炭」の使用を禁止。有害物質の少ない「半生コークス」の使用を推奨しています。
とはいえ半生コークスは高価過ぎ、そうたくさんは買えません。貧困にあえぐ世帯は依然として安価な原炭の使用を続けているようです。
最もよいのはゲル地区の生活インフラを整えることですが、莫大なコストが掛かります。現在、モンゴル政府はユニセフや国際的な機関・団体の力を借りながら、ゲル地区の開発・地域整理に当たっています。
ただし、これも早急な改善にはつながらず、子どもを地方に住む家族の元に預ける人も少なくありません。
この現状に怒ったウランバートル市民の中には、環境汚染を作り出すゲル地区に対し過激な発言・反応を見せる人も多く見られます。大気汚染が原因で、富める者・貧しい者の対立も懸念されています。
発展著しいウランバートルに行ってみよう
発展途上のモンゴルのエネルギーをひしひしと感じられるのがウランバートル。モンゴルを訪れたら、たっぷり時間を取って散策してみてください。おしゃれなカフェ・レストランが続々と登場しているので、ガイドブックにはない発見もできるでしょう。
ただし、人口が多い分トラブルに遭いやすいのも事実です。「よその国にいる」という自覚を持って行動するようにしましょう。
ウランバートルで、「草原」「自然」以外のモンゴルの魅力も味わってくださいね。