モンゴルと日本の距離はおよそ3,000km。直行便の飛行機に乗れば、およそ5時間30分で到着します。同じアジアの国同士ですから、アメリカやヨーロッパへ行くときほどの遠さは感じません。
しかし、文化や言語については日本とモンゴルには大きな差があります。今回は、「モンゴルの言語」について、とりわけ「モンゴルでは英語が通じるか?」という問題について詳しく見ていきましょう。
モンゴルの英語事情は?
日本人は一般に「英語が苦手」と認識されている国民です。とはいえ義務教育で英語を習っているため、数や簡単な会話ならできる人は少なくありません。
また観光地や公共交通機関には英語表記があるのが一般的です。英語が話せる職員も一定数配置されているため、日本語が分からない観光客観光客でも、英語が話せれば何とかなるケースがほとんどでしょう。
それでは、同じアジアに属するモンゴルでの英語事情はどうなっているのでしょうか。日本と同様に英語が広く受け入れられているのでしょうか。
モンゴルではほぼ英語は通じない
モンゴル国内では、英語はほぼ通じないと考えましょう。
モンゴル最大の首都・ウランバートルは外国人が多いため、場所によっては英語が通じます。ただし、「ホテルや公共交通機関なら英語が通じるだろう」と安易に考えるのはおすすめできません。
日本人なら「英語が分からない」といっても「OK」「1.2.3…」くらいは分かる人がほとんどです。ところがモンゴルで「英語が分からない」という場合は、ほぼ通じないと考えた方がベターです。
ごく一般的なホテルや公共交通機関でも、英語が話せる人に出会える確率は低いといえます。日本と同じ感覚で旅行すると言葉の壁に困るかもしれません。
モンゴルでは英語よりロシア語が通じやすい
年齢が上の人、主に1940~80年くらいの間に生まれた人々は、英語よりもロシア語の方が通じやすいはずです。
モンゴルは1924年、ソ連の支援のもと世界で2番目の社会主義国家として独立を果たしました。その結果ソ連の強い影響下に置かれることとなり、1942年にはモンゴル文字の代わりにロシア語のキリル文字が国家文字として採用されることに。
学校教育においてもロシア語が義務教育となり、モンゴルの人々は日常的にロシア語を使うように強要されました。
ロシア語は1992年の民主化以降排除される傾向にありますが、モンゴルで使われる文字は現在もキリル文字です。
モンゴルの旅行をスムーズにしたいと思ったら、英語よりキリル文字を読めるようにしておくのがベターかもしれません。
モンゴルで英語を話したいなら若い世代を狙おう
モンゴルで英語を使って意思疎通したい場合は、若い世代を狙うのがおすすめです。
1992年の民主化以降、子ども達が学習する第二言語はロシア語から英語が主となりました。そのため、民主化以降に生まれた子どもは、みな学校で英語を学んでいるはずです。
とはいえ、実際のところ、これによりモンゴルの人々の英語レベルが劇的に高まったとは言い難いのが現実です。
まず、あまりにも英語の義務教育化を急いだだめ、現場の教師のスキルが追いつきませんでした。英語を教える側のスキルが不十分なため、英語教育が十分にできていないといわれます。
また、英語の学習であるにもかかわらず、多くの現場では旧ソ連式の学習スタイルがそのまま継承されてしまいます。これも英語スキルを獲得する上で壁となりました。
加えて、そもそも英語とモンゴル語は文法からして全く異なります。言語形態の違いによる言語習得のハードルは高く、モンゴル人の多くは英語に関して中級または低レベルを抜け出せずにいるといわれています。
モンゴルで英語以外の外国語は通じる?
2017年に「モンゴル移民局」が発表したデータによると、当時居住許可を得てモンゴルに居住していた外国人は122カ国およそ2万4,000人だったそうです。
このうち約8,700人が中国人、2,570人が韓国人、2,700人がロシア人と多数を占めます。加えて首都・ウランバートルを中心にモンゴルを訪れる外国人観光客も増えており、モンゴルと外国との係わりは増えているといえます。
モンゴルでは、英語以外の言語はどの程度通じるのでしょうか。モンゴルの英語以外の言語事情を見ていきましょう。
中国語
モンゴルはかつて「元」として中国を支配していた歴史があります。そのため「中国語も通じるのでは?」考える人もいるかもしれません。
しかし、モンゴルでは、中国語はほとんど話されていないのが現状です。中国語を話すのは、観光業の従事者や外国とのビジネスに勤しむビジネスマンなどに限られるでしょう。
ごく普通の人々が中国語を話し、理解することはほぼありません。
むしろ、歴史的な問題などから中国語で話しかけると怒り出す人もいるとか。モンゴルでは中国語はメジャーではないと覚えておきましょう。ただし、内モンゴル自治区内は当然ながら中国語も話されます。
韓国語
韓国人はカフェやレストランを経営していることが多いそうです。韓国語を話したいときは、そのような場所に足を運ぶとよいかもしれません。
また、韓国の文化コンテンツは今や世界を席巻しています。モンゴルでも韓国のドラマや音楽にはまっている若者が多く、韓国語を積極的に勉強している人が増えているそうです。
日本語
モンゴルは親日国家の一つとしてよく知られています。
親密な二国間外交を行ってきたことなどもあり、日本に対する印象は良好です。加えて近年はモンゴル出身の力士が多く、日本に親しみを感じている人は多いでしょう。
ウランバートルには日本語学校などもたくさんあるので、カタコトの日本語なら理解できる人に出会えるかもしれません。
とはいえ、近年は日本語よりも韓国語や英語を選択する若者が多いよう。モンゴル人の日本語はさほど期待しないようにしましょう。
モンゴルで英語が通じないときの対策
モンゴルで英語が通じないからとモンゴルへの旅行を諦めるのはもったいないことです。モンゴルでの旅や生活を快適にするには、事前準備をしっかりしておくとよいでしょう。
モンゴルで英語が通じないときのため、取っておきたい対策を紹介します。
モンゴル語を覚えて行く
最もベーシックな対策は、現地の言葉を学んでいくこと。つまり、モンゴル語で少しは意思疎通できるようにしておくのです。
モンゴルではモンゴル語が話されますが、このうち公用語とされるのは「ハルハ方言(Khalkha Mongolian)」と呼ばれるものです。中国領内の「内モンゴル自治区」で話される「内モンゴル方言(Inner Mongolian)」とは若干異なるため注意しましょう。
旅行するだけなら、基本的な単語や、いくつかのあいさつを覚えておくだけでも旅がスムーズになるはずです。
自動翻訳アプリを入れていく・Google翻訳を使う
「もっと簡単に済ませたい」という人は、スマホにモンゴル語の翻訳アプリを入れていくのがおすすめです。オフラインで使えるアプリもあるので、いくつか入れておくとよいでしょう。
またWi-Fiが使える環境なら、Google翻訳が大活躍してくれますよ。ただし、こちらを使うにはモンゴルでもスマホを使えるようにしておかねばなりません。
モンゴルで使うなら、SIMフリーのスマホが必須です。SIMカードはウランバートルの「ノミンデパート」で購入できるので、まずはこちらに足を運びましょう。ここには英語が話せる店員さんもいるので、スムーズに購入できるはずです。
モンゴル語会話本を持参する
万が一スマホが使えないときのため、会話本を持参するとよいでしょう。伝えたいことは本の通りに読むか見せるかすればよいので、いざというときの心強い味方となります。
「旅行会話本を持って行くなんてダサい」と思う人も、もしかしたらいるかもしれません。しかし、「会話本が現地の人とコミュニケーションを取るきっかけとなった」という人は意外と多いよう。
「発音を直してもらった」「言いたいことが言えた」など、現地の人と会話が弾みやすくなるでしょう。
とくに「モンゴル語は全く知らない」という状態なら、Wi-Fiが切れたら困るスマホアプリは頼りないかもしれません。「本は荷物になる」と感じても、お守り代わりに持参してはいかがでしょうか。
そもそもモンゴル語ってどんな言語?
モンゴルの公用語となっている「モンゴル語」は、西部のカザフ地域を除くモンゴルのほぼ全土で話されています。
せっかくモンゴルに行くのなら、モンゴル語とはどのようなものなのか、知識を深めておくのが有益でしょう。
モンゴル語とはどのような言語なのか、詳細を紹介します。
発音・文法は日本人にとって親しみやすい
モンゴル語には7つの母音、4つの二重母音、29の子音があります。
母音は日本語の「アイウエオ」のほか「イとエの中間の音」「ウとオの中間の音」です。
日本語にない音は、発音を難しく感じるかもしれません。
しかし、モンゴル語はそのまま読めば通じる言語です。中国語のようにアクセントで意味が変わることはなく、日本人でも比較的発音しやすい言語といえます。
加えて、文法も基本的には日本語と同様の「主語–目的語–動詞」です。頭の中で翻訳するとき、日本語に置き換えて考えやすいでしょう。
読むのは難しい
民主化以降、モンゴルでは伝統的なモンゴル文字を復活させようとする動きが盛んです。しかし、経済的な問題などから改編はほとんど進んでおらず、現在ではパスポートの名前などにモンゴル文字が使われているのみです。
街に出れば前述の通りキリル文字が多く、アルファベットに慣れている日本人からするととっつきにくく感じるかもしれません。
例えば、モンゴルでは数を示すとき、以下のようなキリル文字が使われます。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
нэг | хоёр | гурав | дөрөв | тав | зургаа | долоо | найм | ес | арав |
ニグ | ホヨル | ゴロヴ | ドゥルヴ | タヴ | ゾルガー | ドッロー | ナェム | ユス | アラヴ |
全て覚えるのは難しいかもしれませんが、「こんな感じなんだな」と頭に入れておくと役に立つかもしれません。
モンゴルで困ったときに使える!覚えておきたいモンゴル語
出典:Medium
英語が通じない、翻訳アプリが使えない…、旅行中はさまざまなアクシデントが懸念されます。もしも旅先で何かあったとき、頼れるのは自分自身。
モンゴルに行く予定があるのなら、基本的な言葉を覚えておくと安心です。
ここからは、旅先で使えるモンゴル語の表現をいくつか紹介します。
返事をするとき
日本語 | モンゴル語 |
はい | Тийм(ティー(ム)) |
いいえ | Yгүй (ウグィ) |
わかりました | За(ザー) |
すみません/ごめんなさい | Уучлаарай(オーチラーレー) |
わかりません | Ойлгохгүй (オイルゴフグィ) |
知りません | Мэдэхгүй(メデフグィ) |
好きです | дуртай (ドルタェ) |
嫌いです | дургүй (ドルグィ) |
このうち、汎用性の高い言葉が「分かりました」を意味する「За」(ザー)です。2回続けて言えば「はいはい、分かった、分かった」的なニュアンスになります。また、語尾に付けて「でしょう?」「だよね?」という意味でも使えます。
あいさつするとき
日本語 | モンゴル語 |
ありがとう | Баярлалаа(バイラルラー) |
さようなら | Баяртай(バイルタェ) |
おはよう | Өглөөний мэнд(ウグルーニー ミン(ド)) |
こんにちは | Сайн байна уу?(サイン バイノー) |
こんにちは(友達同士) | Сайн уу?(サイノー) |
はじめまして | Танилцъя(タニルツェヤ) |
いってらっしゃい | Сайн яваарэй(サイン ヤワーレイ) |
日本から来ました | Японоос ирсэн(ヤポーノスイレセン) |
旅行中の「ありがとう」は、人々とのコミュニケーションを円滑にします。何かと使う機会は多いため、ぜひモンゴル語で言えるようにしておきましょう。ただし「R」の音が連続するので、きれいに発音できるようになるまでには時間がかかるかもしれません。
トラブルに遭ったとき
日本語 | モンゴル語 |
助けてください | Туслаарай(トゥスラーライ) |
医者を呼んでください | Эмч дуудаарай(エムチ ドゥーダーライ) |
日本語を話せる人を呼んでください | Япооноор ярьдаг хүн дуудаж өгөөч(ヤポノール ヤリダグフン ドウダジュ ウグーチ) |
パスポートを無くしました | Паспортоо алга болгочихлоо(パスポルトー アルガ ボルゴチ ホロー) |
警察を呼んでください | Цагдаа дуудаарай(ツァグダー ドゥーダーライ) |
財布を盗まれました | Түрийвчээ хулгайд алдчихлаа(トウリーブチェー フルガイド) |
いずれも現地で使いたくはない言葉です。しかし、万が一を考えてフレーズごと覚えておくとよいでしょう。
数の数え方
1 | нэг(ネグ) |
2 | хоёр(ホヨル) |
3 | гурав(ゴロヴ) |
4 | дөрөв(ドゥルグ) |
5 | тав(タヴ) |
6 | зургаа(ゾルガー) |
7 | долоо(ドロー) |
8 | найм(ナェム) |
9 | ес(ユス) |
10 | арав(アラヴ) |
まとめ
英語は「世界共通語」などと言われますが、モンゴルでは英語の有用性を過信しすぎない方が良さそうです。英語で何とかなるとは考えず、アプリをダウンロードしておく、モンゴル語の本を持って行く、基本的なモンゴル語はマスターして行く、など対策を取っておきましょう。
とはいえ、「言葉が通じない」という体験ができるのも海外旅行の醍醐味の一つ。言葉の問題でモンゴル旅行を諦めるのはもったいない話です。もしも現地で言葉に苦労することがあっても、「こんな体験滅多にできない!」と前向きに捉えて楽しみましょう。
ただし、大きなトラブルに遭わないよう警戒心を持って行動してくださいね。