民族衣装とは、どのような国々、どのような人種や部族であれ持っている衣装のことです。
その衣装は一見すると、装飾であったり、様式美であったりに目が行きがちですが、その実、人々の歴史的背景が如実に出ています。
日本の和服もそうです。
現在、和服と言えば振袖を思い浮かべる方がほとんどですが、振袖は元々未婚女性が着る正装です。
そのため、成人式などで、まだ結婚していないであろう人が着るのは理に適っています。
しかし、日本の和服に似た民族衣装が他の国にあるかと言われるとありません。
これは日本の和服だけではなく、どのような民族衣装にも共通して言えることです。
民族衣装とは、民族のアイデンティティを示し、その国独自に発展を遂げてきています。
2つとして似たようなものはないでしょう。
本記事では、特徴的でかっこいいモンゴルの民族衣装について紹介していきます。
モンゴル民族衣装の基本
デールの基本的な特徴
モンゴルの民族衣装は「デール」という名前で知られていますが、一口にデールと言っても、その形式は部族によって様々。
チンギス=ハーンがモンゴル高原を統一するまで、モンゴルは多数の部族による群雄割拠な時代がありました。
そのため、部族ごとに衣服の統一がなかったため、様々なデールが生まれることになったのです。
デールと一緒に身に着ける靴や帯にも部族ごとに数十種類あるというのですから驚きですよね。
モンゴルのデールはルーツが中国のチャイナドレスがルーツではないかと言われています。
基本的に立ち襟であり、首と右胸、右わき、右腰の4か所でボタンを留めます。
次に、腰に帯を巻いて整えるような形です。
夏のデールの特徴
実は、デールには夏用と冬用が存在します。
モンゴルは昼夜の温度差然り、夏と冬の寒暖差が非常に激しいです。そのため、デールを季節ごとに使い分けるのは理に適っているのです。
まずは夏用のデールから紹介します。
モンゴルの夏は比較的冷涼であり、平均気温は19度ほど。暑い日は30度を超えるような日もあるみたいですが、日本のような高湿ではなく、どちらかといえば乾燥しているので過ごしやすいそうです。
しかし、日本よりも紫外線量が多いため、夏場に着るデールには紫外線から体を守るような工夫を拵えています。
素材は綿や絹といった通気性・吸湿性いずれにも富む素材が使われています。
冬のデールの特徴
比較的過ごしやすいと言われている夏に対して、冬の厳しさは尋常ではないです。
9月頃はまだ過ごしやすいのですが、10月以降は一気に冷え込むことになります。
12月、寒さが最も厳しくなる時期に-20度くらいにまでなるんだとか。
しかも、モンゴルは国土のほとんどが高原であり、風を遮るものがほとんどないため、強い大陸風も吹き荒れます。
そのような厳しい寒さから身を守るためにも冬用のデールは必要不可欠!
寒さや風から身を守るため、生地は羊毛と動物の毛皮によってつくられています。
デールの機能性
モンゴル民族衣装であるデールは遊牧騎馬民族の文化に寄り添った設計になっています。
体の表面を覆う面積が多く、気密性が高いので、野営をする際の布団替わりになってくれたり、長い裾をタオルやハンカチのようにして使ったりもするんだとか。
また、袖は手綱を引くのに手を保護する即席なグローブとしても機能します。
下半身は大股開きがしやすく、騎馬の際にまったく邪魔になりません。
このように、一見すると、チャイナドレスに似ていそうなデールがその実、古来から北方民族に受け継がれる胡服の性能をしっかりと受け継いでいるのがわかりますね。
男性用デールの特徴
モンゴルの民族衣装は男性用、女性用共に非常によく似た作りとなっています。
日本の和服が男女で全然違うのとは対照的です。昔からモンゴルでは場合によっては部族長の妻が部族の代理になることもあったため、男女の差異は少ないのかもしれません。
暖施用のデールは体に対して割合ゆったりとした寸法になっています。
男性は煌びやかさよりも格調高さを重んじており、生地の色は一見すると渋めで淡い色であることが多いです。
中でも、青色が最も格式ある色であるとされています。
また、男性はデールに合わせて、ジャンジュン・マルガイと呼ばれる帽子をかぶります。
玉ねぎのような形をしている特徴的な帽子です。
これは男性しかかぶりません。ジャンジュン・マルガイの名前の意味が「将軍」であるところからもこの帽子の意義がわかると思います。
モンゴルの民族衣装に合わせる靴はゴタルと言う名前なのですが、このゴタルはちょっと歩きにくいです。
なぜ歩きにくいかと言いますと、前述のデールと同様に、馬に乗り、平原を闊歩することを念頭に置いている靴だからです。
ゴタルは馬に乗った時、足先が鐙から落ちるのを防ぐためで、硬く頑丈ですが、その分普通に歩くのには適しません。
女性用デールの特徴
次に、女性用デールです。
女性用デールも基本的な形式や着付け方は男性用デールとそこまで差異はありません。
しかし、そのデザインや色に大きな特徴があります。
男性用デールが比較的ゆったりとしたものを着るのに対し、女性用デールは体の艶やかさを演出するために、ウエストを強調したデールを着つけます。
未婚者の場合、その上からブスと呼ばれる帯を締めますが、既婚者の場合は帯を締めず、ウーズと呼ばれる袖のない上着を着ることもあるそうです。
また、男性用に比べ、全体が煌びやかに円シュルされており、帽子一つにしても、頭頂部に長い飾り紐があるなどの工夫が伺えます。
遊牧民の特に女性にとって、このようなアクセサリーは非常に大事な資産になりえます。
日常的につけられている装飾ぐは銀製品が多く、何かの儀式などで着飾る時はその時々の状況に合わせて珊瑚、トルコ石、ヒスイなどの更に高価なものに付け替えたりもあします。
男性の装飾具がボタンや帯、指輪などに限定されるのに比べると、すごい違いですね。
珊瑚がアクセサリーに使われていた?
前述の通り、モンゴル女性はデールに珊瑚などで作ったアクセサリーを合わせます。
しかし、よく考えてみてください。
モンゴルはその国境を中国とロシアに囲まれた完全な内陸国です。珊瑚は海で産出される水産資源ですが、一体内陸国のどこで珊瑚がとれるのでしょうか。
実は、珊瑚と言っても使われるのは珊瑚の化石です。
つまり、モンゴルのある場所がまだ海だったころに生きていた珊瑚が化石化したものを使っています。
それでも、量がたくさんあるかと言われればそうではなく、モンゴルの女性にとって美しい珊瑚のアクセサリーを手に入れるのは少し贅沢なんだとか。
他に使われるアクセサリーの素材として、ヒスイなども挙げられますが、それらはシルクロードを渡ってやってきた輸入品などを使うそうです。
部族ごとにある民族衣装
トルグード族
モンゴルの最西端に住んでおり、その人口規模は15000人と決して大きい部族グループではありません。
しかし、トルグード族の民族衣装は男女共に長年変わっていません。
男性のトルグード族の冬用デールはTojooと呼ばれ、黒いコーナーラインとリバーシブルカラーが特徴的です。
また、帽子はハルバンというものを着用します。このハルバンはトルグード族の大人しか着用せず、若者や子どもはジャタグと呼ばれる別の帽子をかぶるようです。
一方、女性は一般的なモンゴルの民族衣装同様、非常に煌びやかです。
特に、ツェゲグと呼ばれる袖なしのアウタージャケットは特別な儀式や行事のために着用される、特におしゃれな民族衣装。
女性の帽子はトーツォグと呼ばれ、こちらは真珠や珊瑚などで飾られています。
バヤド族
バヤド族はモンゴルで57000人いるグループです。
バヤド族の男性は白い革製のデールを愛用します。
対して、女性は白い襟を持つ赤系統色のジャケットを羽織ります。
バヤド族の女性のデールの白い襟は自分の体を象徴しており、不運や霊から自分の体を保護し、純粋さを表すと言われており、特に既婚の女性が原則着るものとされているようです。
ザクチン族
ザクチン族はモンゴルに約33000人いる部族グループです。
ザクチンはユーモアのセンスが高く、「Bii Bielgee」と呼ばれる伝統的なダンスを踊ることで知られています。
ザクチンのダンサーはその踊りで水や風、乗馬、家畜の搾乳をする様などを表現しています。
ザクチン族は男女ともにカルバンと呼ばれる帽子をかぶります。
男女では違う衣装や被り物をすることが多い他の部族とは対照的ですね。
ブリアド族
モンゴルに約46000人いる部族グループです。
古来から、主な食糧源を狩猟によって賄ってきたという歴史があります。
ブリアド族のデールには3つの明るい色のストライプを持ちます。これらの色は最高の状態、最低の状態、中空の状態の精神を意味しているそうです。
もっと前のブリアド族衣装では、死・悲しみ。痛みを表していたそうですが、これらの色合いやその意味は年代によって変わってきます。
カザフ族
カザフ族は厳密にはモンゴル民族に含まれません。
歴史的にも、カザフスタンに近しい民族です。1940年以降はバヤン・ウルギ県に多数が住み、現在はモンゴル国内人口の1割ほどをしめます。
こういった背景のため、その衣装もモンゴルの他部族とは少し様相が違います。
タタール人、ロシア人、トゥレグ等中央アジアにいる多くの民族から文化影響を受けていた名残が未だに残っているのでしょうね。
彼らは野生の動物の皮から基本となる服を作り、それをシルクなどの材料を使用して装飾をしています。
ダリガンガ族
現在、約28000人がモンゴル国境南東に沿って住んでいます。
彼らは良馬と銀の工芸品で優れた部族として古くからよく知られています。
そのため、彼らの部族衣装も銀製品によって装飾されたものが多いです。
デールの前に髪から2つの装飾品をぶら下げ、その装飾品は銀と赤い珊瑚によってつくられています。
この装飾品をタチュアと呼び、ダリガンガ族特有のものです。
ウリアンカイ族
現在、約27000人がバヤンウルギ県に住みます。
男性は日常生活において、白いデールを好む傾向にあるようです。
側面の隙間には黒い螺旋構造の紋様で飾られており、エッジも同様に黒の素材で縁取りされています。
女性は地面につきそうなほど長いジャケット、「イヤーマフ」を着ますが、これは天候に応じて着用方法を変えられる優れもの。
他の部族衣装と同じように、カラフルで装飾豊かです。
モンゴル民族衣装の現在
日本では、成人式や結婚式など、限られた場でしか着られなくなった和服ですが、モンゴルのデールはどうでしょうか。
現在、若者の間で比較的カジュアルで自由なスタイルが一般的になりつつあります。
都会に住む人々のファッションは少し露出度が高い程度で日本人とほとんど変わりません。
ビジネスの時でもスーツを着用するのが当たり前になってきています。
対して、遊牧民はどうでしょうか。
遊牧民も現在はトレーナーやシャツ、ジーンズと言った洋装を基本としており、デールは滅多に着用しません。
デールを着用するのは日本と同じように、ハレの日に限られており、日本の晴れ着と同様な役割を担っています。
しかし、モンゴル人もデールに対する思いは強く、人生に1回は着てみたいという方がほとんどなんだとか。
まとめ
日本でモンゴル民族衣装を体験できる場所があった!?
ここまで読んでいただいた方の中には、実際にデールを着てみたい、体験してみたいと思った方もいるのではないでしょうか。
でも、実際にモンゴルまで行くのは大変。
しかし、日本でモンゴルの伝統衣装を楽しめる場所があることをご存知でしょうか。
兵庫県にある丹波篠山モンゴルの里では、モンゴル民族衣装の着付け体験のみならず、ゲルの宿泊体験、モンゴル料理といったモンゴルの文化を総合して体験できます。
面白いことに、使用されているゲルは大小5つとも、本当に遊牧民族がモンゴルで使用していたものなんだとか。
全てモンゴルから日本へ移したてたそうです!まさに、移動式住居の文化的性質をしっかり守っていますね。
デールの着付け自体も大層なものではなく、自分の服の上から羽織るというような簡単着付け。
女性だけでなく、子どもや男性向けの衣装も用意しているので、友人、家族、カップルで行って一日中楽しめる場所です。
気軽にモンゴルの文化に触れてみたいという方はぜひお立ち寄りください。