モンゴル国では、行政、教育、放送でほとんどモンゴル語が使われています。
モンゴル国には諸言語ありますが、どこまでが『モンゴル語』と呼ばれるのかというと明確な定義はありません。
一般的にモンゴル国や中国内のモンゴル自治区で使われているものがモンゴル語とされていて、モンゴル語を使用している人の数は500~600万人とされています。
ただ、バヤン・ウルギー県では学校教育でカザフ語を行うことが認められていますが、カザフ語というのは、中央アジアで使われる言語の1つです。
カザフ語は、カザフスタンの国家語であり、中華人民共和国の新疆ウイグル自治区、モングル西部、ロシアでも使用される言葉です。
モンゴル人の中には、カザフ語を使うことができるが、モンゴル語を全く使えないという人もいます。
この記事ではモンゴル語について紹介します。
モンゴル語はモンゴル国以外でも使われている
モンゴル語は、当然モンゴル国で使われている言語ですが、モンゴル国以外の国でも使用されています。
たとえば、中国内モンゴル自治区、ロシアのブリヤート共和国、ロシアのカルムイク共和国でも使われています。
内モンゴル自治区とは?
内モンゴル自治区とは、中華人民共和国の内陸部に位置するモンゴル族の自治区のことであり、モンゴル国と中華人民共和国の国境の大部分を占めています。
ま中国とロシアとの国境の一部も内モンゴル自治区に含まれ、内モンゴルの首都はフフホトであり、主要都市には包頭、赤峰、通遼、オルドスなどがあります。
面積は中国で3番目に大きな行政区画であり、1,200,000平方キロメートルを占め、中国の総国土の12%を占めるほどの広さです。
高原地帯は広く、標高が600~1400mあり、南が高く北が低くなっています。
なだらかな丘とひろいモンゴルの平野と盆地によって、広大な草原を形成しています。
ゴビ砂漠を挟んだ形でモンゴル国と接していて、そうした地理的特徴から中国の史書では『漠南』とも表記されています。
内モンゴル自治区は東西に長く、地理的に東区と西区とに分かれ、東区の主要都市は赤峰、通遼、ハイラル、ウランホトなどがあります。
一方、西区は中国北西部に含まれ、主要都市は包頭、フフホトなどがあります。
2010年の時点での国勢調査では、人口が24,706,321人であり、これは中国の総人口の1.84%にあたり、中国では23番目に人口の多い省レベルとなっています。
内モンゴル自治区の大半は漢人であり、少数派のモンゴル人でも500万人住んでいて、実質的にモンゴル国の人口(320万人)よりも多くなっています。
内モンゴル自治区は中国の中で、最も経済発展している省の1つであり、一人あたりの年間GDPは13,000米ドル近くあり、全国5位にランクされることも多くあります。
内モンゴル自治区の公用語は、中国語とモンゴル語であり、記述については伝統的なモンゴル文字を使っていますが、モンゴル国で使われているキリル文字はあまり使われていません。
漢族では地域によってさまざまな方言を使い、東部では官話方言に属する東北方言を話し、黄河盆地一体の中部では晋語を使って話しています。
また、フフホトやパオトウでは、それぞれ独特な晋語方言が使われていて、ハイラル区では北東地域で話す晋語方言とは、互いの意思疎通が難しいといったことがしばしば見受けられます。
中国によって内モンゴル自治区からモンゴル語が消える?
内モンゴル自治区は、2020年に『教育改革』と称してモンゴル語の授業を大幅に削減し、漢語教育を義務化することを発表しました。
また、2021年に入ると習近平中国共産党総書記は、同改革の強化を指示し、内モンゴル自治区は民族問題を解決して漢語の使用を推し進めていくべきだと主張しました。
そうした動きは、内モンゴル自治区がモンゴル語の教育を実施することで、モンゴルとの結びつきを強め、中国から分裂して独立することを警戒していることがうかがえます。
中国は、漢語教育を徹底することで内モンゴル自治区が中華民族としての意識を高めさせ、中国共産党の一党支配を強固なものにしているとみられています。
内モンゴル自治区は、モンゴル語の授業削減に対し、学校教員や保護者らはそれに反対し、子供たちは授業をボイコットするなど、地元放送局の従業員約300人がストライキを行ないました。
しかし、警察はデモの参加者の顔写真をインターネット上に公開し、1人1000元の懸賞金をかけて密告を奨励して摘発しました。
街中に防犯カメラを設置し、携帯電話やメールも当局に監視されるようになり、170人以上が逮捕されています。
本籍が中華人民共和国であり、東京都生まれで横浜育ち、ニューヨーク在住のノンフィクション作家のタン・ロミさんは、「モンゴル語教育を奪われた未来は、民族滅亡しかない」と批判のコメントをしています。
モンゴル語にも方言がある?
日本にも東北弁や九州弁といった方言がありますが、モンゴルにも地域による方言があるようです。
ハルハ方言
ハルハ・モンゴル語ともいい、主にモンゴル国で使われていて、モンゴル国ではハルハ・モンゴル語が標準語となっています。
チャハル方言
主に中国の内モンゴル自治区で使われ、内モンゴル自治区では中国語と並ぶ公用語となっています。
モンゴル国ではハルハ・モンゴル語を標準語としていますが、中国ではこのチャハル方言をモンゴル語の標準語として使われています。
チャハル方言はモンゴル語の三大方言のひとつであり、地理的にも広い範囲で使われている方言です。
1980年3月、内蒙古自治区人民政府は、『モンゴル語基礎方言標準音とモンゴル語の書き表し方』を発表し、内蒙古自治区のシリンゴル盟正藍旗の発音をチャハル・モンゴル語として、中国におけるモンゴル語の共通としました。
ホルチン方言
内モンゴル東北部で使われる方言で、チャハル方言に比べ中国語の影響が強くなっています。
オルド方言
チャハル方言と似ている方言で、他の方言より基準的な方言です。
ジャロート方言
内モンゴル東北部で使われていて、ホルチン方言と同じように中国語に影響が強い方言です。
モンゴル諸語にはどんな言葉あるの?
モンゴル語と呼ばれる言語には実は色々と言語がありますが、どんな言語があるのでしょうか?それらを下記に紹介します。
ダウール語
中国内モンゴル自治区の東部、新疆ウイグル自治区に住むダウール族で使用。
ブリヤート語
ロシアのブリヤート共和国やその周辺に住むブリヤート人、バルガ族で使用。
モンゴル語
モンゴル国と中国内モンゴル自治区を中心にした地域に住むモンゴル民族で使用。
トンシャン語
中国甘粛省臨夏回族自治州の東郷族自治県のトンシャン族で使用。
バオアン語
中国甘粛省臨夏回族自治州の積石山保安族東郷族撒拉族自治県のバオアン族で使用
康家語
中国青海省黄南蔵族自治州の尖扎県の回族で使用
東部ユグル語
中国甘粛省の粛南裕固族自治県の裕固族(ユグル族)のうち東部に住む部族で使用
士族語
中国青海省の互助士族自治県や民和回族士族自治県の士族(トゥ族)で使用
モゴール語
アフガニスタン北西部ヘラート州周辺の山間部に住むモゴール人の間で使用
モンゴル語の歴史
モンゴル語の表記は、ウイグル文字をもとにつくられた縦書きのモンゴル文字(モンゴルビチゲ)によって表記する蒙古文語が使用されてきました。
16世紀以降のチベット仏教の普及によって、僧侶たちはチベット文字を俗語であるモンゴル語の表記に用いていましたが、現在でも伝統的に一部で継続されています。
チベット文字を基にしたパスパ文字は元朝の公用文字でしたが、モンゴル語の表記にも広く使われてきました。
また、チベット文字などのインド系文字を基にしてつくられた、ソヨンボ文字という文字もあります。
モンゴルがソビエト連邦の全面的な支援によって、中国の清から独立を果たしたモンゴル人民共和国となった時代、1930年にラテン文字による表記体系が宣伝されました。
しかし、1941年2月には一旦ラテン文字表記が公式に採用されたものの、その2ヶ月後には撤回されています。
その後、ロシア語のキリルアルファベットに2つの母音字を加えた表記体系がモスクワの指示によって採用され、言文一致の表記となったのが1941年でした。
また、1957年にはキリル文字で書かれた教科書も出版されています。
他方では、中国内のモンゴル系民族ではモンゴル文字や、トド文字による表記体系は現代でも続いていて、モンゴル人民共和国のモンゴル語とは文字としては分断されてきました。
そして、中華人民共和国内のモンゴル自治区では、伝統的な文字であるももの、かつての文語ではなく言文一致を指向してきたことは注目すべきことです。
モンゴルはソビエト連邦の崩壊によって、モンゴル人民共和国から新生モンゴル国となりましたが、その際に民族意識が高まったことで、それまでの伝統的なモンゴル文字を復活させようという動きがでてきました。
そのことで、1991年に国家小会議で第36号決定により、1994年からモンゴル文字公用化が決定されてその準備が進められようとしていました。
しかし、内モンゴル自治区の新たな文字表記との関わりがほとんどなかった一般国民の間ではモンゴル文字がイコール『話し言葉とは無関係の文語』というイメージが定着していました。
そんなことから、言語そのものと文字の関係において正しい理解が得られず、一時期は正式に計画されていたモンゴル文字への全面的な切替えの計画は中止される形となりました。
現在のモンゴルでの一般教育では、週に1時間のモンゴル文字の学習時間が設定されているものの、社会的にはほとんど無関心状態となっていることから、子どもたちも自分の名前をモンゴル文字で書ける程度となっています。
まとめ
モンゴル語はモンゴル国だけでなく、中国内モンゴル自治区、ロシアのブリヤート共和国、ロシアのカルムイク共和国でも使われています。
また、モンゴル語には方言もあってハルハ方言、チャハル方言、オルド方言といった方言があります。
内モンゴル自治区では、2020年に『教育改革』と称してモンゴル語の授業を大幅に削減し、漢語教育を義務化することを発表し、学校教員や保護者たちが強く反発しています。
内モンゴル自治区のモンゴル語が今後どうなるのか、注目したいと思います。