モンゴルの主要産業は?モンゴル経済の課題や日本との関係も紹介

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旧ソ連の崩壊とともに、モンゴルは社会主義路線を捨て、民主化への道を歩み始めました。民主化・資本主義経済の導入はモンゴル社会に大きな変革をもたらし、人々の生活や価値観に大きな変化を与えています。本記事では、現在のモンゴル経済の特徴やモンゴルを支える主要産業、さらには日本との関係を紹介します。

モンゴル経済の特徴

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1990年に複数政党制が採用され、モンゴルは民主主義国家として新たなスタートを切りました。1992年に「モンゴル国」となってからは資本主義経済が導入され、社会主義時代の計画経済構造は過去のものとなります。

資本主義を導入したモンゴル経済には、現在どのような特徴があるのでしょうか?モンゴル経済の現状を紹介します。

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1. 中国・ロシアに依存している

モンゴル経済の最も大きな特徴は、中国への依存度が高い点です。

モンゴルは北側をロシア、南側を中国という大国に挟まれています。内陸国であるために海へ出る手段がなく、必然的に中国・ロシアとの経済的なやり取りが増えざるを得ません。特に、近年経済発展の目覚ましい中国との関係は深く、モンゴル経済とは切っても切れない関係があります。

まず、モンゴルの輸出・輸入相手国のトップは中国です。

モンゴルへの直接投資も中国からが最も多く、全体の約50%を占めます。

一方、ロシアについては、石油の供給を依存しています。モンゴルのエネルギーはほぼロシアに頼りきりの状態となっており、両国との関係は、モンゴル経済において非常に重要です。

2. 外部要因に影響されやすい経済構造

総人口およそ322万人と少ないモンゴルでは、内需がさほど期待できません。国家収入の多くは外国との取引に頼ることとなり、経済が地勢リスクや環境リスクに左右されやすい一面があります。

例えば、2008年はリーマンショックの影響と輸出のメインを占める天然資源価格の下落により、モンゴル経済は大きな打撃を受けました。このときは、IMFによる支援を受け、経済危機を回避しています

また2011年には資源価格が急騰。これにより、モンゴルは3年連続で実質GDP成長率2ケタを達成し、経済危機を回避したかのように見えました

ところが再び資源価格が下落して、モンゴル経済は苦境に。IMF、世界銀行、アジア開発銀行、中国、日本、韓国などの支援機関から支援を受けることとなったのです。

このように、モンゴルの経済指標は外的なリスクで簡単に乱高下してしまうのです。

3. モンゴル経済の現状

2017~20年まで、モンゴルは各国の支援を受けて経済回復に努めました。IMFや世界銀行などの支援額を合わせると、融資パッケージの合計は約55億ドルに上るといわれます。

モンゴルはIMF主導の拡大信用供与措置(EFF)に従って緊縮財政・銀行セクターの改革などに努め、経済危機を乗り切ることができました。

とはいえ、資源収入に頼ったモンゴルの経済構造は依然として変わっていません。国際機関からの借入れをのぞく対外債務も肥大化しており、長期的に外貨債務の管理を強化していかなければならない状態です。

また、モンゴル政府は中国への依存度を下げようと模索中ですが、中国が輸出の9割を占める状態では非常に厳しいといえます。

特に石炭はほぼ100%が中国向けに輸出されており、中国の意向一つで収入がゼロになる可能性があります。

今後モンゴルがどのように脱・中国を実施し、他国とのやり取りを増やしていくかは非常に大きな課題といえるでしょう。

モンゴルの産業①鉱業

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モンゴル経済を支えているといって過言ではないのが、鉱業です。モンゴルの鉱業についてみていきましょう。

鉱業はモンゴルの最重要産業

モンゴルは遊牧すなわち農業の国というイメージがあります。

しかし、モンゴルの外貨のほとんどは、鉱産物の輸出によって獲得されているのが現状です。

例えば、2014年のモンゴルの総輸出額 は57.8 億。このうち鉱産物が51.3 億ドルと、約90%を占めています。モンゴルは、アジア屈指の資源国といって過言ではありません。

モンゴルが位置するモンゴル高原一帯は、古生代前期~後期、原生代後期の地質体が絡み合った複雑な地形です。地層からは貴重な天然資源が多く採掘されていますが、いまだ全体像はみえていません。

豊富な天然資源をどのように国益に生かすかが、今後のモンゴルの経済状況を大きく左右していくと考えられています。

モンゴルで採掘される天然資源

モンゴル国内で天然資源の調査が終わっているのは、わずか30%程度にすぎないといわれます。

それでもモンゴルにはさまざまな天然資源があり、モンゴルは主に以下の資源で外貨を獲得している状態です。

ウラン モリブデン 石炭 蛍石
リン タングステン スズ

このうち、モンゴルにおけるモリブデンの産出量は世界第10位です。モリブデンとはレアメタルの一種で、「融点が高い」「加工性が高い」などの特徴を持ちます。半導体基板や太陽電池に活用されており、先端技術には欠かせない素材です。

鉱業権については外国資本も多数参入していますが、日本の比率は全体の約4%と高くありません。国別でみるとここでもやはり中国が優勢で、全体の約45.2%を占めます。

鉱業関連の問題もさまざま

豊富な天然資源があれば外国からの投資も増えそうなものですが、実際のところ、諸外国はモンゴルへの投資に慎重です。

まず大きな原因として、政権が変わるたびに資源に関する法律が変わる点が挙げられます。

モンゴルでは、2010年代より天然資源の利権に関わる汚職事件が頻繁に報道されるようになりました。これにより与党・野党の入れ替わりが激しくなり、そのたびに法律が二転三転することに。諸外国は不安定な政治情勢を嫌忌して、モンゴルへの投資が減少したのです。

天然資源をめぐる汚職が多発

汚職内容の多くが「天然資源の利権を安く外国に売り渡した」ことも、外国からの投資を遠ざけた原因の一つです。

数々の汚職事件により、モンゴル国民は「資源ナショナリズム」の意識を高めるようになります。これは「自国の資源は自国で管理・運用しよう」という動きで、諸外国による投資については強い規制が設けられました。

2021年6月に行われた大統領選挙では、モンゴル人民党のフレルスフ氏が現職大統領を破って当選しています。彼は「資源をモンゴル人の手に」をスローガンに掲げており、モンゴルの資源問題に率先して対応していくのではとみられています。

モンゴルの産業②農業(畜産業)

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農業の中でも、畜産業はモンゴルにとってとりわけ重要な産業です。モンゴルの畜産業についてみていきましょう。

モンゴルの伝統産業

モンゴルにおける畜産業は、モンゴル民族が草原の一部族にすぎなかった時代から続く「伝統産業」です。

人々は「五畜」と呼ばれる家畜を連れて草原を移動しながら暮らしてきました。現在もその生活様式を維持して暮らす遊牧民が一定数おり、モンゴルの畜産業を支えています。

ちなみに、五畜とは「ヤギ」「ヒツジ」「ウシ」「ラクダ」「ウマ」です。このうちウマとラクダは主に交通手段として活用され、残りの家畜から乳、肉、毛、皮革などをとるために飼育されます。

ただし、一つの家族が全ての家畜を飼育することはまれで、居住地の特性に合わせて2~3種類を飼育するのが一般的です。

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近年は定住して牧畜する農園もある

モンゴルは寒暖の差が激しく、定住して家畜を飼育するのに適していません。そのため、牧畜業を営む家庭の多くは、季節に合わせて住みかを変えるのが一般的です。

こうした遊牧生活はモンゴルにおける伝統的な牧畜スタイルですが、近年は春から夏にかけてのみ放牧を行う「半集約方式」で家畜を育てる農場も散見されるようになっています。

地球温暖化の影響により、モンゴルでは、大規模な「ゾド(雪害)」が多発するようになりました。

ゾドに見舞われた年は家畜が大幅に減少し、食肉市場価格が急上昇したり乳製品が不足したりといった事態に見舞われます。

遊牧国家であるにもかかわらず乳製品の輸入額が増加することとなり、ついに政府は畜舎で家畜を育てる「集約型」の畜産業導入に踏み切ったのです。

現在、モンゴル政府は集約型の農家に限定して「集約的畜産生産開発支援プログラム」を展開するなど、さまざまな支援策を行っています。

畜産業における問題

モンゴルが社会主義時代だったころは、個人が飼育する家畜は全て国家のもの。家畜の飼育は国家による厳密な管理下に置かれ、家畜数は適切にコントロールされていました。乳製品・肉類の市場への供給量は安定し、大きく崩れることはほぼ無かったといいます。

しかし、民主化以降は家畜の個人所有が認められるようになります。家畜の所有数についての制限もなくなり、牧畜農家はたくさんの家畜を飼育できるようになりました。

これに伴い、乳製品・肉類の供給は完全に個人に依存する体制へ変化。現在のモンゴルでは、都市部の住民には、国産の乳製品の安定的な供給が難しくなっています。

過放牧の問題も

現在、モンゴルでは、草原に放牧された家畜が草を食べ尽くして環境を破壊する「過放牧」が問題となっています。

モンゴル民主化以降、とりわけ飼育数が増えたのは、カシミアの原材料となるヤギです。国内外におけるカシミアの需要が高まったことから、牧畜業を営む遊牧民はこぞってヤギを飼育するようになったのです。

ところがヤギは草を食むときに、根っこから食べてしまいます。ヤギが食べ尽くしたあとの土地は草の再生が難しく、荒地化が顕著です。

また、ヒツジにしても、頭数が多ければ牧草地の草を食べ尽くしてしまいます。家畜飼育数の上限がない現在、狭い範囲に過密状態で家畜を放牧する遊牧民も少なくありません。

モンゴルでは、草原の再生と放牧をどのようにバランス良く保つかが、非常に重要な問題となっています。

モンゴルの産業③観光業

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民主化以降、モンゴルでは国内の観光資源を生かした観光業も重要な産業の一つとして認識されています。モンゴルにおける観光業をみていきましょう。

民主化以降観光開発が活発化

社会主義時代は観光客の受け入れを制限していたモンゴルですが、民主化以降は豊富な観光資源を武器に、観光業を国家収入の柱の一つとする動きがみられます。

2000年にモンゴルで「モンゴル観光法」が制定されたり「道路交通観光省」が設立されたりした結果、多くの外国人がモンゴルを訪れるようになりました。

2019年の観光産業による収益は、6兆5千3百万ドル。これは、モンゴルのGDPの約10%に相当する金額です。現在、モンゴルにおける観光業は鉱山業・畜産業に次ぐ重要な分野となりつつあります。

モンゴルを訪れる観光客の比率

ここでは、2019年にモンゴルを訪れた観光客について見ていきましょう。

まず、モンゴルを訪れた観光客の総数は、577,300人です。このうち最も多いのは中国人で、29%を占めます。次いで多いのはロシアの25%、さらに韓国の17%と続きます。

日本人観光客は24,419人と少なめで、全体に占める割合は約4%です。とはいえ、10年単位でみるとモンゴルを訪れる日本人観光客は増加しています。ウランバートルに日本資本によって作られた新空港が開港したこともあり、今後モンゴルへの観光客はますます増えていくかもしれません。

モンゴル観光業のアピールポイント

モンゴルを訪れる観光客の主な目的は以下の通りです。

  • 大草原の散策
  • ゲル宿泊
  • 砂漠地帯の散策
  • 星空

モンゴルの魅力は砂漠・草原・山・湖といった趣の異なる観光を楽しめる場所があることです。ほとんどの観光客が、モンゴルならではの自然を満喫するために訪れています。

加えてモンゴルには、伝統的な遊牧民の暮らしがあることも見逃せません。現地では遊牧民の暮らしを体験できる、生活体験型の観光も充実しています。

また、近年は環境意識の高まりから「エコツーリズム」が盛んに取り沙汰されるようになりました。モンゴルでは豊かな自然環境を生かしたプログラムが提案されており、自然と調和した観光・体験ができるとして注目されています。

モンゴルの観光業における問題点

モンゴルの観光業において最も大きな問題は、交通インフラの不足です。モンゴルにはゴビ砂漠やカラコルム遺跡などの見どころがありますが、首都・ウランバートルからの交通手段は不足しています。

例えば、モンゴルにある5つの世界遺産のうち、ウランバートルから比較的容易にアクセスできそうなのは「オルホン渓谷文化的景観」くらいです。

道路があっても悪路であるケースも多く、モンゴルが観光業をさらに発展させていくためには、幹線道路の整備は必須といえるでしょう。

また、ゲルでの宿泊ツアーが隆盛になるにつれ、草原のそこかしこでゲルツアーが開催されるようになりました。これが草原地域の環境や景観悪化の原因となっており、適切な法による規制が必要といわれています。

特にツアー客によるごみの問題は深刻で、早急な対応が求められている状態です。

モンゴルは天然資源と遊牧の国

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モンゴルの産業において最も重要なのは、鉱山業です。広大な草原や砂漠地帯には恵まれたモンゴルでは、80種類以上の鉱物が見つかり、6,000床以上の鉱床・鉱徴が確認されています。日本との取引はさほど多くはありませんが、今後日本にとってモンゴルの存在はますます重要になるかもしれません。

また、モンゴルでは「五畜」を養う牧畜業も盛んです。現在遊牧民の数は減っているものの、昔ながらの伝統的な暮らしを維持する人も少なくありません。乳製品や肉類・カシミアはモンゴル国内外から注目を集めています。

日本からモンゴルまでは、直行便で約5時間。比較的気軽に行ける距離なので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。